前回の続きです。
娘が娘でなくなっている
わたくしをとても心配させたのは、娘がほとんど何もしゃべらなくなったという事でした。
何を聞いても、抑揚のない調子で、アーイ、アーイというばかりなのです。
「腰は痛いの?」
「アーイ」
「腰は痛くないの?どっちなの」
「アーイ」
といった調子で、全く普通ではなくなってしまってしまっているのでした。
それから一週間ばかりの間、娘は、寝たり起きたりしながら、ほとんど食事もとらない日々を過ごしていました。
この間、わたくしがどんなことをたずねても、返事は相変わらず、アーイ、アーイだけでした。
一週間を過ぎて、ようやく元気を取り戻し始めた娘は、少しづつ食事の量も増えていきました。
でも、すっかり別人のようになってしまった娘が、以前の娘に戻っていく気配は、全然ありませんでした。
娘の目が異様な光を帯びてきた事に気づいたのは、丁度その頃のことでした。
「美代子、腰の痛みはどうなの?」
わたくしが、繰り返し、このことを聞くと、娘はまったくあらぬ方を眺めながら、うつろな表情にわずかな微笑みを浮かべて、妙なことを口走ったのです。
「わたくし、正雄さんが好きなの」
「違うのよ、美代子、腰の痛みはどうなの?腰の痛みのことを聞いているのよ、母さんは」
「ううん、いやよ、五郎さんは嫌い、正雄さんが好きなのよ……」
それからというもの、娘に何をどのように聞いても、こんなふうな愛の言葉しか返ってこなくなってしまったのです。
これだはもう、完全な物狂いとしか言いようがありません。
わたくしは、あまりの事態に、とにかく大阪支部のF先生に電話を入れました。
「F先生、あの時の修法以来、娘が狂人同様になってしまったのです。
何を問いかけてもまともな返事をせず、返ってくるのは、正雄さんが好きだとか、そのような愛の言葉ばかりなのです」
「腰の痛みはどうですか」
「ですから、あの時以来、腰の痛みのこととか、その他のことについてもいろいろ問いかけてもまったくまともな返事をしなくなってしまったのです。
そして、今申しましたように、返ってくるのは愛の言葉ばかりなのです。
先生、いったい、どうしたらいいのでしょう」
「腰の痛みを訴えないのならば、痛みは取れているということではないのですか。
私の修法がきいておるのだ」
「ですが先生、娘は完全に狂人に……」
「あんたもわけのわからん人だね。
私は、娘さんの腰に憑りついていたヘビの霊を外してあげたのです。
それで、娘さんが腰痛を訴えなくなったのなら、良いではないですか。
それ以上、私は何も言うことはない」
ガチャン、と電話が切れてしまいました。
それから何回電話をしてもこの調子なので、わたくしは、再び大阪支部まで足を運び、F先生をたずねました。
けれども、今度は、居留守を使われました。
何回行っても、係の人が困り顔であらわれて、
「F先生は、ただいま外出中です。
今日は、お帰りにならないかもしれません」
の一点張りなのです。
次回に続きます。
取り返しのつかない失敗
毎回書きますが、何ともはやひどい話です。
目に見えないことを良いことに、霊能者はやりたい放題です。
腰痛を訴えないのならいいではないかと言って、けんもほろろです。
娘さんのお母さんからすれば、腰痛どころか以前の娘さんを返してほしいところです。
こんなひどいことをしておきながら、現実の世界では全く罰せられることはないのです。
この霊能者は、のうのうと生きていて、又第二の第三の犠牲者を出していなければいいのですが……
人生には取り返しのつく失敗と、取り返しのつかない失敗があります。
ほとんどの場合は、取り返しのつく失敗でその経験を生かして次の成功につなげることが多いものです。
でもこのお母さん、取り返しのつかないことをしてしまいました。
娘の腰痛を治すためだったはずなのに、とんでもない霊能者に出会ってしまい、嫌がる娘を娘のためだと勘違いをしてしまい、とうとう娘の人生をダメにしてしまいました。
もちろんこの霊能者が一番悪いのです。
でも、生きているとこのような口先だけはうまいことを言いながら、悪いことをする輩がいるものです。
こういう事に騙されないためにも神のお知恵がいただけるように、常に聖の親様のお力をいただいていることが大切だと思います。