前回の続きです。
黒子の装束は高橋さん
——やはり、そういうことだったのか!
隈本確先生は、篠田さんの今回の苦しみの原因が瞬間的に見てとれました。
その黒子の装束に身をかためた女性とは、亡くなった高橋さんその人だったのです。
すると、その時、苦しみにあえぐ篠田さんが静かに顔をこちらに向けると、ジーッと隈本確先生の顔を見返してきました。
訴えるようなその篠田さんの目が、無言の心の言葉を発しています。
「先生、すみません。わたくしは、かねがねの先生のお導きと戒めのお言葉を実行することができませずに、高橋さんに対して、あまりにも深く深く思いの橋をかけすぎてしまいました。
生前、あれほど清く正しい生き方を貫かれた高橋さんが、なぜ死後の霊界でこのように苦しんでおられるのか、わたくしにはわかりません。ですが、今、高橋さんはこうして、生前仲良くしていたわたくしに懸命に憑依してきておられます。
わたくしは、霊界で苦しむ高橋さんを何とか救済してさし上げようと全力を尽くしてみましたが、それもかなわず、ただいま先生がご覧のとおりにございます。高橋さんは、こうして霊界での苦しみを続行されて、わたくしに憑依しておられます。
先生、どうか霊界で苦しんでおられる高橋さんをお助けください。そして、わたくしの、この憑依現象による苦しみをもお助けください。お願いします」
この間、わずか数秒間です。
隈本確先生は、この篠田さんの無言の訴えを聞いて、彼女に対して、なぜ、わたしのかねがねの導きの言葉を実行しなかったのか、というような気持にはさらさらなりませんでした。
篠田さんは、人間としてまことにりっぱな発露を、その行動にあらわしたわけであり、ほめられようとも、決して非難されるべき筋のことではありませんでした。
しかし、神霊科学の面から言えば、篠田さんは、自分を苦しめ、さらには自分の命を落とすかもしれない危険をおかしてしまった、ということになります。
ここに、慈悲心とか同情心という人間のもっとも美しいとされる心のあり方と、神霊世界の現実との間に広がる大きなくいちがいを感じないわけにはいきません。
まことに、深く悲しむことであります。
次回に続きます。

わかっていた篠田さん
この話の内容の前に、隈本確先生と篠田さんとの無言のやり取りは、テレパシーでの会話ですよね。
数秒でのやりとりですが、そちらの方に私は感動をしています。
おそらく肉体がなくなれば、こういうことが普通に行われるのでしょうが、肉体があるうちにこういうことが行える、って凄いことですね。
>わたくしは、かねがねの先生のお導きと戒めのお言葉を実行することができませずに、高橋さんに対して、あまりにも深く深く思いの橋をかけすぎてしまいました。
篠田さん、わかっていたのですね。
わかっていたけれど、目の前で苦しんでいる高橋さんをほおっておけなかったのですね。
>霊界で苦しむ高橋さんを何とか救済してさし上げようと全力を尽くしてみましたが、それもかなわず、ただいま先生がご覧のとおりにございます。
篠田さんの神霊治療の力でも救済できなかったということですね。
けっこう強いのですね。
>神霊科学の面から言えば、篠田さんは、自分を苦しめ、さらには自分の命を落とすかもしれない危険をおかしてしまった、ということになります。
大霊界というのは、あくまで一人ひとりの人間、という考え方なのかな、と考えました。
あっているのかどうかわかりませんが、一人ひとりが自分のことを責任をもって生きる、慈悲心とか同情心というのは限度を超えると、依存ということになりかねないからでしょうか。
依存というのは、人間の独立する心を妨げるからかな……と考えてみました。