前回の続きです。
怪しげな祈祷師
うなだれたまま、ため息とも返事ともつかない小さな声を漏らした母親は、不意に顔をあげ、訴えるようなまなざしを隈本確先生に向けると、語り始めました。
以下は、その母親が語ったものです。
……娘をこんなふうにしてしまったのは、実は母親であるこのわたくしの責任なのです。
世の中には、本当にひどい、恐ろしいことがあるものです。
わたくしが、無理矢理、あんな怪しげな祈祷師のところへ連れていきさえしなければ、娘はこんなことにならなかった……、それを思うと、何としても悔しい。
あの祈祷師が、心の底から恨めしいのです。
先生、どうか、わたくしの話を聞いてください。
つい二年ほど前までは、この娘も、全く普通でした。
親の欲目かもしれませんが、器量も頭も十人並み以上、体だって腰以外は悪くはなかったのです。
ですから、母親のわたくしの心配事と言ったら、どんな男性のところに嫁ぐのだろうかという、そんなことぐらいだったのです。
ところが、この娘は腰だけがちょっと悪かったのです。
七、八年前くらい前から腰が痛いと言い出して、あらゆる治療を試みたものの、どうしてもすっきりしないというのです。
そんなある日のこと、わたくしは、日本全国に組織をもつ某心霊団体で病気治療を行っている、という事を耳にしました。
そこで、さっそく住まいから一番近いという事で、その団体の大阪支部に娘を連れて行ったのです。
当の娘は、御祈祷などには初めからあまり乗り気ではなかったのですが、ともかく、大阪支部では一番偉いと言われているF先生に治療をしていただくことになりました。
そして、いよいよ治療です。
わたくしと娘は、F先生の個室に招き入れられました。
F先生は初老の男性でしたが、わたくしたちが入っていくなり、すぐに「霊視をしましょう」と言って、瞑目をしました。
それから、一、二分後、霊査を終えたF先生は、こんなことを言ったのです。
「お嬢さんの腰にはヘビが巻き付いています。
このお嬢さんの五代前のご先祖が、二メートル余りにもなる大きな思いヘビを殺しているのです。
しかも、お殺したあげく、火で焼いています。
お嬢さんの腰が痛むのは、そのヘビの怨念が原因です」
会員一万人以上と言われているこの心霊団体の、その幹部の先生がそう言われたのです。
わたくしは全身から血の気が引くような想いで、F先生の次の言葉を待ちました。
娘はと見れば、やはり緊張した面持ちでジーッとしています。
F先生は続けて言いました。
「この殺されたヘビの怨念を外さなければ、絶対にお嬢さんの腰痛は治りません。
今後、十年でも二十年でも、いや、一生続くでしょう」
「では、では、どうしたらそのヘビの怨念は外れるのですか」
わたくしは、すがる気持ちでF先生にたずねました。
「その方法はただ一つ、絶対に私の修法に従うというのならば、ヘビの怨念は解けるでしょう」
「先生、お願いします。
ぜひともお願いします。
何とか、そのヘビの怨念を解いてください」
わたくしは、なおも必至で、F先生のとりすがらんばかりになって、頼みました。
すると、F先生は大様にうなずいて、言ったのです。
「そうまで言われるなら、よろしいでしょう。
では、さっそく手法にとりかかりましょう」
そう言うや、F先生は、部屋の隅にあった押し入れから布団を取り出し、わたくしたちの目の前で床に敷きました。
「それでは、今から修法を始めます。
お嬢さんは、まず裸になりなさい。
そして、この布団の上にうつぶせになりなさい」
次回に続きます。
気持ちの悪い話
今まで隈本確先生の本を読んでいて、変な祈祷師や行者の話を読んできましたが、今回ほど気持ちが悪く、読んでいて辛く苦しく感じたのは初めてです。
この先はまだ長く続きますが、今の段階でもう気持ちが悪いです。
こうやって、目に見えないことをいいことに適当なことを言っていることに無性に腹が立ちます。
このF先生には、本当にヘビが巻き付いて見えるのか、見えないけれど見えるとウソを言っているのかわかりませんが……
動物霊などいないと隈本確先生は力説をしています。
厄介なことに、霊査と言ってもレベルの低い人もいれば高い人もいるようで、低い人には本当にそう見えるようです。
素人には、霊査のレベルなどわかりませんから、困っている依頼人から見れば神妙な顔をしてもっともらしく言われれば信用します。
腹ただしいことに、こういうことには法律は一切かかわることはできませんからね。
やりたい放題ですね。